医療翻訳家のブログ

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イギリスの翻訳会社の正社員。20代。イギリスの片田舎に住んでいます。都会に引っ越したい。医療の知識なしで翻訳者になってしまいました。医療関係者ではない視点から、医療英単語やフレーズをどのように訳せばいいのかを解説します。

Mutationの訳に決着をつけたい

Mutationをどう訳せばいいのか?という話。

 

なぜか私たちは外国語1語に対応する日本語(逆も然り)が1対1で存在する、と考えがちです。特に翻訳者は1文字も訳し漏れがあってはいけないと思うあまり、そういう傾向が高い気がします。

 

たとえばですね、thank youというとき、誰もthankとyouに分けて考えないですよね。「ありがとう」の概念が対応するからです。ところが話が専門的になったり、複雑になったとたんに一語ずつ分けて訳す人が多くなってしまう。Mutationもそういった単語の一つなんではないかと思います。

 

Mutationってどういう意味なのか?ググると「突然変異」と出てきます。あとは「変化」「変異」とか。これでもいいんですが、私は医療の文脈では「遺伝子変異」と訳すことを勧めます。その理由は2つで、①医者の話を聞いていて、「遺伝子変異」と言うことはあっても「突然変異」と言う人を見たことがないから。②そもそもmutationには「遺伝子の変異」という意味があるから。

 

逆に「遺伝子変異」と聞くと、germline mutationと訳すのではないか、と思われるかもしれません。が、英英辞書を引くとmutationの意味はこうあります:

mutation*

noun
UK /mjuːˈteɪ.ʃən/ US /mjuːˈteɪ.ʃən/

[ U ] the way in which genes change and produce permanent differences:

It is well known that radiation can cause mutation.
 
遺伝子の変化によって恒久的な違いが生まれること、ですね。つまりmutationという語の中には「遺伝子の」という含みがあるわけです。
 
例えば、肺がんと関係の深いEGFR遺伝子変異は英語ではEGFR mutationと表されます。いちいちgermlineと言わなくても、Mutationにその意味が含まれているからなんですね。
 
日本語の辞書(特にオンライン上のもの)は完璧には程遠く、英語の文章がどのような概念を表しているのかを知るには英英辞書を引くことを怠ってはいけません。一語一語を大事にするのはよいですが、それにとらわれ過ぎて概念を取り損なうことがないようにしたいですね。
 
出典
 
 

 

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