医療翻訳家のブログ

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イギリスの翻訳会社の正社員。20代。イギリスの片田舎に住んでいます。都会に引っ越したい。医療の知識なしで翻訳者になってしまいました。医療関係者ではない視点から、医療英単語やフレーズをどのように訳せばいいのかを解説します。

翻訳のスピードを上げるコツ3つ

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突然ですが、良い翻訳者とはどんな翻訳者だと思いますか?

 

私は、端的に言うなら1.翻訳の質が良い。2.翻訳スピードが速い。だと思います。要は仕事の質が高くてかつ速い、というどんな職業でも共通して求められる原則ですよね。

 

今回は2の翻訳スピードについてお話しようと思います。私の場合、1日の労働時間7.5時間で訳せる語数は約2000wordsです(ものによりますが)。これ以上はできません。他の翻訳者さんのサイトを見ていても、大体英語→日本語ですと1日2000 wordsが基準になってくるのではないかと思います。ちなみに私の職場ですと、ヨーロッパ人はもう少し訳せるみたいです。でも英語⇔ヨーロッパ言語なんてそもそも似た言語同士の翻訳ですから、日本語の翻訳より速くて当然なんです。似た単語もたくさんありますしね。日本語はラテン語圏の言語とは根本的に異なりますから、他の言語の翻訳スピードは参考にならないと思います。ですのであまり気にしないようにしましょう。

 

さてクライエントが期待しているのは当然質の高い翻訳ですが、これに加えて納期が早いとクライエントとしては「使える翻訳者」となり、また仕事が回ってきやすくなります。

 

では翻訳スピードはどうやって上げればいいのか。3つ挙げるとしたら、私は以下のことだと思います。

1.専門用語を覚える

これは翻訳の数をこなすと自然と覚えるものですから、あまり心配する必要はありませんが、よく使う専門用語は意識して覚えておくとよいでしょう。よく使う専門用語をいちいち調べていては時間が取られてしまいます。

用語訳のソースは何を使えば良いかという問題がありますが、まずはCATツール(翻訳ツールのことです。有名なのだとトラドスとか、memsourceとか、色々あります)のメモリーや、過去の翻訳を参考にしましょう。

 

それらを探しても見つからない場合は自分で調べることになります。有名なネット上のメモリーだと「産業翻訳だよ!」*がありますね。産業翻訳だよは便利ですが、たまに訳が間違っていたり、あまり使われていない訳だったりするので、気を付けましょう。色々な意味で、一つのソースのみに頼るのは危険です。

*「産業翻訳だよ!」は2019年8月末でサービス終了するそうです。結構便利だったので、困ったなあと。誰かが翻訳者が集まるプラットフォームを作るべきです。

**追記(2019年11月9日)「産業翻訳だよ!」は9月〜10月までは機能していましたが、本日見てみるとアクセスが出来なくなっていました。本当に閉鎖したということなんでしょうね。理由は今のところ不明です。

 

それでも見つからない場合はどうするか。どうしても訳語が見つからない場合は、「頼れる日本語訳」を探すのは諦めて、英英で探してみましょう。「〇〇 meaning in medicine」とかで検索すると、日本語で検索するよりも多くの検索結果が得られることがあります。

 

ざっくりと意味が分かったら、今度はその英語を自分で日本語にしてみましょう。日本語にしてみてから、その日本語をもう一回検索にかけるといいですよ。意外と専門用語が見つかったりしますから。

2.分からないところはとりあえず飛ばす

翻訳していると、「うーん、何のことを言っているのか分からん!」ということが多々あります。この現象が起こる理由は、大体以下の3つに分けられるでしょう。①文脈がつかめていないから。②原文の英語が変だから。③自分の英語力不足。

 

①の場合、ずっとそこで立ち止まっているのは得策ではありません。なぜなら、文書を最後まで読み通して全体を掴むことで細部が明らかになることがよくあるからです。一つの文章が分からない時は、とりあえず置いておき、文脈や全体像がつかめてから戻ってくるようにしましょう。

 

②の場合は、「しょうがないなあ」などと思いつつ、自分で意味の通る訳文を作るか、クライエントに質問するしかないでしょう。状況に応じて対処しましょう。

 

③の場合は短期間で解決する問題ではないかもしれません。日本人翻訳者に質問するのが一番いいかもしれません。

3.日本語にしにくい表現は、自分なりの翻訳ルールを作っておく

 翻訳をやったことがある人は経験済みだと思いますが、英語→日本語に訳すとき、スッと訳せることもあれば、日本語にぴったりくる言葉が見つからずに悩むこともあります。つまり、英語の概念が日本語の概念にないときですね。

 

このような場合、日本語に近い概念を当てはめるか、なんとか平易な日本語で概念を説明することになりますが、この作業を翻訳中にやっているとかなり時間を取られます。

例えば、be comfortable withは幅広く使われる表現ですが、非常に日本語に訳しにくい表現です。私たちは「comfortable=快適な」で教わってきてしまっていますが、実はcomfortableの意味範囲は「快適な」の意味範囲よりもずっと広いものになります。「快適な」と言うと、私たちは「快適なソファ」とか、「快適な空間」とか、そういう物理的な心地よさのことを想像します。一方英語のcomfortableには、そうした物理的な心地よさの他に、「(何かについて)何も心配していない」という意味もあります。日常会話でもよく使われる意味です。このような意味でbe comfortable withが使われているとき、日本語では「~に自信がある」「~に懸念がない」と言った意味になります。

このような訳しにくい表現については、自分なりの翻訳リストをいくつか作っておくといいと思います。そしてその表現が出てきた時は、文脈から考えてしっくりくるものを選んでいく。そうすることで、いちいち調べる必要がなくなり、いわば作業を自動化することができます。

 

一方で、辞書には載っていないけれど日本語にしっくりぴったりくる表現が見つかることもあります。こういうときはラッキーで、忘れずにメモしておくといいでしょう。翻訳者の醍醐味と言ってもいいかもしれません。

 

それではまた。

 

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