医療翻訳家のブログ

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イギリスの翻訳会社の正社員。20代。イギリスの片田舎に住んでいます。都会に引っ越したい。医療の知識なしで翻訳者になってしまいました。医療関係者ではない視点から、医療英単語やフレーズをどのように訳せばいいのかを解説します。

イギリスのコメディアンが本名を法的にHugo Bossに変えちゃった話

Hugo Bossはドイツの高級ファッションブランド。シックながら現代的なデザインも取り入れており、メンズを中心に世界的に展開している。かつてナチスに制服を作っていたことでも有名。

 

このHugo Bossだが、少し前、2020年3月頃にイギリスで話題になった。というのも、コメディアンのJoe Lycett(ジョー・ライセット)が本名をHugo Bossに変更し、BBCを始めとするさまざまなメディアをザワつかせたからだ。

 

ちなみにJoe Lycettはこの人。Channel 4で'Joe Lycett's Got Your Back'という番組を持っている。番組は主に、様々な企業、それも大企業が法の目を盗んで搾取しようとしたり悪事を働いているのを巧みな方法で暴いていき、時にお仕置きする...という内容。

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"LycettPascoeGreen290518-11", by Raph_PH, licensed under CC BY 2.0

 

いったいなぜ彼はそんなことをしたのか?

 

理由を聞くと納得。

 

Hugo Bossはある日、"Boss"を企業名に含んでいる多くの小規模企業に手紙を送り、"Boss"という名前を変えるように指示。これにはウェールズの小さなビール会社Boss Brewingも含まれており、この会社はHugo Bossとの法的な争いに数百万を費やした結果、2つのビールの名前を変更せざるをえなかった(名前変更にも多額の金がかかった)。

 

これに対しJoe Lycettは「ビールとファッションブランドを混同する人なんている?」と憤慨。さらに、「もし2つのブランドの違いが分からない人がいたら、簡単な方法がある。ナチスに制服提供してたのは1つだけだからね」といって微妙な笑いを誘い、さらに「国営放送でこれを言うと相当嫌がられる」と言ってまた笑いを取っている(このくだりは本記事のYouTube動画で見ることができる)。

 

彼はHugo Bossが"Boss"という単語を他に使われるのを嫌っているのは明らかだとし、さらに自分の名前を法的にHugo Bossに変えることに成功。

 

 "Hugo Bossが自社の名前が使われることを嫌っているのは明らかだ。気の毒だが、今週捺印証書(Deed poll)により、私は法的に名前を変更したので、これからはHugo Bossとして公に知られることになる。私が発する今後の全ての発言はJoe LyvettではなくHugo Bossのものとなる。ヨロシク。"(拙訳)

 

Hugo Boss(ファッションの方)はこれに対しコメントを出している。まず

 

We welcome the comedian formerly known as Joe Lycett as a member of the Hugo Boss family”(以前Joe Lycettとして知られているコメディアンをHugo Bossファミリーの一員として歓迎します)(拙訳)

 

としたうえで、

 

 

"…as a 'well-known' trademark (as opposed to a 'regular' trademark) Hugo Boss enjoys increased protection not only against trademarks for similar goods, but also for dissimilar goods across all product categories for our brands and trademarks Boss and Boss Black and their associated visual appearance.

"Following the application by Boss Brewing to register a trademark similar to our 'well-known' trademark, we approached them to prevent potential misunderstanding regarding the brands Boss and Boss Black, which were being used to market beer and items of clothing.

"Both parties worked constructively to find a solution, which allows Boss Brewing the continued use of its name and all of its products, other than two beers (Boss Black and Boss Boss) where a slight change of the name was agreed upon.

"As an open-minded company we would like to clarify that we do not oppose the free use of language in any way and we accept the generic term 'boss' and its various and frequent uses in different languages".

(出典:https://www.mewburn.com/news-insights/whats-in-a-name-enforcing-trade-mark-rights-and-the-own-name-defence

 

つまり、Hugo Bossは、「偏見のない」(open-minded)会社として"boss"という単語が自由に使われるのに反対はしていないが、服飾雑貨ではない製品に関しても混同を避けるため、Bossを名前に含むビールを商標登録しようとしているBoss Brewingに連絡した、とのこと。

 

その後のJoe Lycettの対応は若干嫌がらせ寄りになっている気もするが、Hugo Bossの行動を世間に知らせるのには十分だったのではないか。こちらの動画でその全てがみられる。

 

youtu.be

 

Hugo Bossからの返事を見たJoe Lycett、今度はHugo Bossの'open-minded'さを確認するため、自分の名前(当時Hugo Boss)を使用したサポートバンドを作成(バンドの裏には「僕の名前を盗まないでください」という趣旨の文言が延々とプリントされている)、ロンドンにあるHugo Bossの店の目の前でお披露目をする。Hugo Bossは警察を呼んだらしいが、その後の顛末は不明。

 

Joe Lycettによれば、Hugo BossはBoss Brewingの救済を拒否しているし、未だに謝罪すらしていないとのこと。

 

この一件はイギリスではかなり話題になったし、TwitterでもHugo Bossに皮肉なリプライが相次いだことを見ると、Hugo Bossの行動が世間の目にさらされたのは間違いない。名前や商標登録はセンシティブな部分があるので、筆者はどちらの味方もできないが。

 

なおJoe Lycett、現在(2020年4月17日)は名前をJoe Lycettに戻した模様。

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